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闇に広がる銀世界の中、私は貴方の腕の中に横たわる。空から降り注ぐ雪が、まるで私を迎えにきたかのように辺りを包み込んでいく。冬の夜はとても寒いけれど、こんな幻想的な景色に抱かれて最期を迎えられるなんて、なんと幸せなことでしょう。
でも一つ心残りがあるとすれば、それはこの世界で私のすべてだった、貴方をおいて逝かなければならないこと。大事なものはもう幾度となく無くしてきたけれど、彼だけはずっと私の側にいてくれた。できることならもっと、貴方のために生きていたかった。 こんな悲しみに満ち溢れた世界にはもはや希望なんてないと、私はそう知っているはずなのに。人間とはなんと愚かなものでしょうか。私はこんな状況でも、いまだに彼の美しい横顔に惹かれているのです。
私を腕に抱いて悲しそうに見下ろす彼の、仄蒼い頬に手を伸ばす。すっかり冷たくなってしまった頬の下には、きっとあたたかい血汐がかよっていて、ぬくもりが確かにそこにはあるはず。でも、今の私の手ではそこに辿り着くことはできない。ああ、なんて虚しいことでしょう。 だからせめて、この時を少しでもつなぎ止めるために、彼の身体を力ない両腕で抱き寄せた。その肩の向こうに広がるのは、どこまでも真っ暗な空と、はらはらと舞い落ちる白い雪。
「死ぬな…っ、死ぬなよ…!!頼むから…!!」
この世に変わらぬものなど存在しない。つまり、私と彼との間にも永遠など存在しない。なのに何故、それでも人は無きものばかりを望むのでしょうか。今私のために涙を流しながら慟哭する彼は、きっと神にも縋る思いなのでしょう。 でも、もしも今私が神に縋れるとしたら、私はこのまま安らかに迎えられる死を望むでしょう。この雪が姿を変え、私を葬るための糧となり、この身体をこの世から消し去れてしまえたら、それはとても素敵なこと。
たとえば、この雪が土だったならば、私は冥い闇の底に埋もれることができるでしょう。 たとえば、この雪が炎だったならば、この身体はただただ焼かれて朽ち果てるでしょう。 私はそのような死を望んでいるのです。この雪を降らせているのが神様なのだとしたら、どうかこの願いを聞き届けてください。
そして彼を包むこの雪は、光り輝く星であってほしい。彼が私を失っても、光を失わずに強く生きていけると確信して、そうして私はようやく、安らかに息を引き取ることができるのです。 この瞼から容易に溢れる涙は、こんなことを願う私の彼に対する罪の証のよう。身体は雪に埋もれても、心はいつまでもその腕の中に在りたいだなんて烏滸がましいことを願ってしまう、こんな私をどうか赦してください。 |
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「神の雪」をテーマに書きました。 この曲の世界観がすごく好きです。 |
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