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私は悲しみに暮れた。来る日も来る日も。冬の、雪が降る日に、妹は逝った。私は過去に囚われ、さよなら、さよならと何度も叫び、忘れる事が出来なかった。昔二人で見た映画のワンシーンのように、私達は一心同体だった。どうにかして生き返る方法はないものかと、医学に明け暮れる日々を過ごした。手術器具を大量に買った。解剖もした。いつの間にか、部屋は病院の手術室のようになった。飾ってあった写真には虫が湧いている。 せめて魂だけでもと、大量の人形も買った。しかし、結果は実らなかった。自身は老化していくばかりだというのに。 また一緒に大好きなお人形で遊びましょう。 また一緒にお外で遊びましょう。 また、一緒に……。
外で、枯葉が動いた。風が吹いたのではない。地下から冬眠していた虫が這い出てきた。冷えた土が肌に沁みる。髪が、服が、ボロボロだ……。
私は妹の命日の日、必ずあの子の所に行く。あの子が眠っている場所へ、白い百合を持って。まだ雪は降らないのね。こんなに息は白いのに……。そんな事を感じながら、私はいつもの道を歩いていた。すると林の向こう、見慣れない白いものが動いている。すっかり弱くなってしまった視力では、何が動いているのか分からない。唯、白いものが何かをしているように見える。地下から這いずり出ているようだけれど、虫というには大きいし、蛇というには小さい。何か別のもののような……。 私は少しずつ近づいて行った。徐々に、白だけでなく、茶色も見える。全体像が大体分かっていく中で、私はあるものの存在が浮かび上がってきた。 「貴女は……?」 声に反応したそれは、少しずつ上体を上げた。 「……お、姉さま?」 奇跡が起こった。妹が、甦ったのだ。長年劣悪な土の中にいたせいか、服はボロボロになっていた。しかし、私が手を差し出すと、妹は私の手を取った。そして、立ち上がった。その後、私は再び生き返った妹と一緒に暮らし始めた。 暫く暮らしていて気付いた事がある。彼女の体についた傷は消える事はなかった。勿論、体についている血も消えない。妹の体は亡くなった時の幼いままで、成長する事も、老化する事もなかった。しかし、体は脆くなっていて、次第に自力で歩く事が困難になっていった。 それでも、以前のように彼女は私と暮らしている。こんな事があっていいのだろうか……?
「お姉さま」 「なあに?」 「お姉さまは、最近悲しい顔ばかりしていらっしゃるわ」 「……そうかしら?」 私は妹へ視線を向けると、彼女は薔薇のコサージュを弄っていた。亡くなった両親の買ってくれたものだった。彼女が亡くなった時、彼女の頭飾りにつけてあげたものだった。 「お姉さまは昔と変わってしまったわ。……昔は何かと私と一緒にいて、二人でよく遊んだわ。でも、最近は一人でいることの方が多くなったわ。まるで私を避けているみたいよ」 「そんなことは無いわ。きっと考えすぎよ」 私は後ろから妹を抱きしめた。そこに人の温もりはなく、硬くひんやりした皮膚の冷たさを感じた。 彼女の言い分は尤もだった。私はもう一人の大人、一人の人間となった。もうあの日のような、双子の少女は何処にもいない。私が今までしてきた事は何だったのだろうか。それを、否定されるのが、怖いだけなのだろうか……? 「お姉さま、私は感謝しているわ。私を生き返らせてくれた。私の事を考えてくださったわ。……でも、別れは来るのよ。それが例え、どんな人でも。……しょうがないのだわ」 「……そうね」 「ありがとうお姉さま。ずっとずっと、大好きよ」
私の答えはもう決まっていた。妹にそれを伝えると、待っていたのかのように微笑んだ。 |
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凶夢伝染から作りました。アリカ様が以前、PVは双子の話と言っていたので、双子の姉妹に生死を重ねながら書きました。結構気に入っている作品です。 |
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