私たちを花に例えるとしたら、それは蓮華の花が相応しいでしょう。この争いの絶えない生き辛い世界で愛し合い、互いにいつ死ぬかもわからない中で力強く生きようとする様が、泥の中から這い出て美しい花を咲かせるそれと似ていると、私は思う。
私を抱き締める彼の首で幾度となく舞ったこの指は、言うなれば蓮の花弁。貴方の首に、髪に触れ、愛を囁き合える瞬間が、私にはとても幸せだった。その幸福な一時だけは、蓮に例えられる私たちを取り囲む世界である水も泥も、混じり合い引き合って私たちに光を与えた。

しかし、そうして力強く咲こうとする花も、いずれ涸れてしまうということを私は知っている。蓮の命もそう長くはなく、盛りを過ぎてしまえばあとはただ泥に沈み、涸れゆくだけ。私たちはこんなにも共に生きることを願っているのに、この世界は簡単にその願いを撥ね除ける。
そんな世界は、きっと私たちが生きる場処ではないのでしょう。いつかどちらかが先に死ぬことはわかりきっていて、いくらこの世界で足掻いても、この愛は永遠には続かない。だったらせめて、私の手で彼の命を終わらせてしまいたい。そうして私も後を追えば、この世界から共に抜け出し、次の世で生まれ変わることができるでしょう。

いつものように伸びてくる腕を受け入れ、貴方の肩を掻き抱く。抱き返すこの腕は、無防備なその首の根を掻き斬るための生身の白刃。せめて苦しませないように、一思いに袖に隠したナイフで首元を一気に切り裂いた。迸る鮮血と、頽れる身体。異様な景色の中で、彼の首に刻まれた傷痕に来世への願いを託す。
そして辺りはやがて、私の手によって放たれた炎に包まれた。彼の上に折り重なり、炎の中で骨になりゆくこの身体は、まるで泥の中から永遠に空を見ることのない蓮の茎。この子宮も、まるで蓮の花が散るかの如く灰になり、この世から永遠に消え去ることでしょう。薄れる意識の中で愛しい彼のことを思いながら視た夢は、この燃え盛る炎のように熱く激しい、しかしどこか儚い紅炎の夢だった。

──次に意識が引き戻されたとき、辺りを包み込んでいたのは静寂。生まれて初めて経験する無の感覚に、不思議と心が落ち着いた。私にはもうすでに足はなく、目の前には夜気を浸す蓮の池が広がっている。そこに月が傾れ込んでいる様は、まるで蓮に例えられる私たちに希望の光が射しているかのようで、とても美しかった。
どこかで蕾の開く音がする。それはきっと、次の世に生まれ変わる為の合図。そこで出逢えたときに、きっと貴方はその首に浮かぶ蓮華の刺青を見て私のことを思い出すでしょう。もしかしたら、貴方を手にかけた私のことを恨んでいるかもしれない。だから今度は貴方が私を、愛しいその手で殺してください。

そのとき私たちは、永遠の愛を手にすることになるでしょう。それは、巡る輪廻の果ての物語。
アリカさんの楽曲解説を元にイメージを膨らませました。
この曲本当に大好きです。
(C) ALI PROJECT Dilettante NET 2013